通勤電車をテーマに、特に満員電車の問題を軸に、東京と大阪の鉄道網の歴史と現状を書いた本なのだが、詰め込みすぎで読みにくいというのが正直な感想である。
読みにくい要因の一つは、とにかく単発の話、この駅ではこういうことが、この路線ではこういうことが、というのがあまり整理されずにとにかくぎっちりと詰められているので、よほどのマニアでないと面白くないというのが挙げられる。
自分は東京在住なのでまだ東京の話題は慣れ親しんだ駅もある(とはいえよく使う駅でないと東京の駅さえ細々した話は全然実感がわかない)が、大阪の話は全くちんぷんかんぷんであった。
大阪在住の人が読んだら東京のパートは同様の感想を抱くであろう。
また、細かすぎてほとんど読めないようなダイヤグラム、見づらいしどこを読めばいいのかわからない人口増減率の図表やグラフなども多く、そのあたりはもう少し読者を考えた書き方にしてほしかった。
サブタイトルに「快適通勤のために」、帯に「もっと楽に通勤したい」とあるが、満員電車解消のための考察がきちんと行われているという感じではない。
論じているのは路線をさらに増やしたり、本数を増やしたり、乗り換えをしやすくしたりするという、鉄道側でどうこうする話だけであり、例えば満員電車解消の有力手段たりうる時差通勤や、都心集中の解消など、都市全体を見渡した議論は全く行われていない。
また、外国の大都市でどういう対策が取られているか、等々の比較検討なども、最初にちょこっとだけ話があるくらいでほとんど行われていない。
そもそも、冒頭で通勤電車に伴う損失を「とられてしまう通勤時間の逸失」と「通勤の運賃」で定量化しているが、仮に本数を増やすなどして混雑を減らし満員電車を解消することに成功しても、通勤は快適になり大きな進展であるにもかかわらず、ここに挙げられた二つの指標は両者ともに変化しないので、通勤電車の弊害の指標として全く機能していない。
結局、本書では電車の話をしたかっただけで、通勤電車の問題を真面目に考察している感じではないと言えよう。

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通勤電車のはなし - 東京・大阪、快適通勤のために (中公新書 2436) 新書 – 2017/5/18
佐藤 信之
(著)
東京や大阪の鉄道整備は「おおむね完了」したという。東京では副都心線以来、新たな地下鉄建設はなく、大阪でもモノレール延伸計画が中止になった。しかし、本当に現在の通勤状況は満足すべきものなのか。混雑率200%に達する東西線や田園都市線をはじめとして、問題の大きな路線をピックアップし、問題点と対策を解説。さらに輸送改善の歴史をふりかえり、将来必要な新線はなにか、その費用はだれが負担すべきかを展望する。
- 本の長さ277ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2017/5/18
- ISBN-104121024362
- ISBN-13978-4121024367
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上位レビュー、対象国: 日本
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2017年7月5日に日本でレビュー済み
「もっと楽に通勤したい」という帯はもう30年前ならインパクトはあったかもしれません。かっての首都圏の鉄道の凄まじい混雑はさすがにだいぶ緩和されたようですね。
今も混雑緩和は依然重要な課題ですが、現代ではそれとは逆にお客さんを増やすことも考えないといけないようです。実際に東急は沿線の価値を高めるために鉄道インフラの投資をしているとのこと。関東では大規模な新線計画はなくなったとのことで、少し寂しい気もします。時代は変わりましたね。
とはいえ、もっと混雑を減らしてほしいという要求は今もあり、そのための様々な方策が本書に記載されています。複々線化だけじゃなく、運転間隔を詰め込んだり、車両を増結したりといろいろ手はあるものですね。
個人的に一番興味深かったのは、京阪が80年代まで架線電圧が低かったことでしょうか。車両を増結するには架線電圧を上げないと行けないようなのですが、京阪では複々線化が先に進行したので、あえて電圧を上げて車両を増結する必要がなかったとのこと。なるほど。
他にも地下空間の活用法やコンクリートを作り変えても配線を変更する工事など興味深い話が盛りだくさんでした。コアな鉄道ファンからすると物足りないんでしょうが、私のような素人には楽しめました。
今も混雑緩和は依然重要な課題ですが、現代ではそれとは逆にお客さんを増やすことも考えないといけないようです。実際に東急は沿線の価値を高めるために鉄道インフラの投資をしているとのこと。関東では大規模な新線計画はなくなったとのことで、少し寂しい気もします。時代は変わりましたね。
とはいえ、もっと混雑を減らしてほしいという要求は今もあり、そのための様々な方策が本書に記載されています。複々線化だけじゃなく、運転間隔を詰め込んだり、車両を増結したりといろいろ手はあるものですね。
個人的に一番興味深かったのは、京阪が80年代まで架線電圧が低かったことでしょうか。車両を増結するには架線電圧を上げないと行けないようなのですが、京阪では複々線化が先に進行したので、あえて電圧を上げて車両を増結する必要がなかったとのこと。なるほど。
他にも地下空間の活用法やコンクリートを作り変えても配線を変更する工事など興味深い話が盛りだくさんでした。コアな鉄道ファンからすると物足りないんでしょうが、私のような素人には楽しめました。
2017年7月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
快適通勤したいので読みました。ただ、期待はずれでした。
首都圏や大阪における鉄道網の発達の歴史が最初のパートですが、単に何年何月に何線が作られました、という話が延々と書かれているだけで、単なる資料集のようです。そういった事実を知りたい人ならいいですが、筆者の見解もほとんどなく、面白くはありません。
日本の近代化と歴史に関して興味があるなら、原田勝正『鉄道と近代化 』(1998年、吉川弘文館)を読んだほうがいいです。
首都圏や大阪における鉄道網の発達の歴史が最初のパートですが、単に何年何月に何線が作られました、という話が延々と書かれているだけで、単なる資料集のようです。そういった事実を知りたい人ならいいですが、筆者の見解もほとんどなく、面白くはありません。
日本の近代化と歴史に関して興味があるなら、原田勝正『鉄道と近代化 』(1998年、吉川弘文館)を読んだほうがいいです。
2017年10月25日に日本でレビュー済み
人口の減少と都心回帰にしか期待できない。
中目黒から駒沢通の下に地下鉄を作る以外、田園都市線の救済方法はない。
中目黒から駒沢通の下に地下鉄を作る以外、田園都市線の救済方法はない。
2018年6月23日に日本でレビュー済み
通勤輸送に関して、経済損益の視点からの分析は一般書としては良かった。
ただ、筆者が細かく書こうとするあまり、あまり知らないのであろう大阪の鉄道で事実誤認や誇張が目に余る。
新大阪~大阪間は、本書発行時点で新快速は外側線運転。以前は確かに内側線だったが(82頁)。
地下鉄と南海線の新今宮駅乗り換えが不便(96頁)とあるが、堺筋線は天下茶屋駅乗り換え、御堂筋線は難波駅乗り換えが一般的。阪堺線に至っては、そもそも並走路線で乗り換える人がいない訳じゃないだろうが、というレベル。
学者の書いた新書、ましてや佐藤先生と言うことで期待して購入したが、鉄道評論家並の難癖やらなんやらで、正直がっかりした。
新快速走行路線の些末なミスはいいとしても、査読とまでは言わないがもう少し第三者に読んでもらった方が良かったように思う。
ただ、筆者が細かく書こうとするあまり、あまり知らないのであろう大阪の鉄道で事実誤認や誇張が目に余る。
新大阪~大阪間は、本書発行時点で新快速は外側線運転。以前は確かに内側線だったが(82頁)。
地下鉄と南海線の新今宮駅乗り換えが不便(96頁)とあるが、堺筋線は天下茶屋駅乗り換え、御堂筋線は難波駅乗り換えが一般的。阪堺線に至っては、そもそも並走路線で乗り換える人がいない訳じゃないだろうが、というレベル。
学者の書いた新書、ましてや佐藤先生と言うことで期待して購入したが、鉄道評論家並の難癖やらなんやらで、正直がっかりした。
新快速走行路線の些末なミスはいいとしても、査読とまでは言わないがもう少し第三者に読んでもらった方が良かったように思う。